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500件以上の移転を手がけたヒトカラメディアが語る。社員のモチベーションに"効く"オフィスづくりの処方箋

「働き方改革」の機運の高まりや、それを支えるビジネスチャットツール等の普及を受けて、ここ数年働き方や仕事に対する考え方が大きく変わりつつある中、「オフィス」自体の定義も大きく変わってきています。さらにシェアオフィスが登場し、自社オフィスを持つことが必ずしも自明ではなくなってきた現在、企業のオフィス観はどのように変容しつつあるのか。そして働く人の満足度や就職先としての魅力度にどのような影響を持つのか。これまで500件以上のオフィス移転を手がけてきた株式会社ヒトカラメディアが見る、最新のオフィスを巡る価値観の変遷についてお話を伺いました。

八塚 裕太郎プロフィール

2007 年より京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センターへ参画して以降、オフィスや働き方の研究に従事。2016年より株式会社ヒトカラメディアにて、これからの組織のあり方を基点としたオフィスづくりに携わる。

三浦 圭太プロフィール

店舗/商業デザイン事務所を経て2008年から三井デザインテックにてチーフデザイナーとして商業施設、オフィスを中心としたデザインワークを手がける。2018年より自身のデザインブランド「MINE」を立ち上げともに、株式会社ヒトカラメディアで循環型の価値提供におけるクリエイティブ責任者を務める。

人が集まる元気な企業がオフィスづくりに力を入れる理由

(左:三浦氏 右:八塚氏)

ferret:
最近、伸び盛りの企業がオフィスづくりでも注目を浴びるケースが多いように感じるのですが、それらの企業はなぜ今オフィス環境にこだわるのでしょうか

八塚氏:
これまでも機能的で快適であるということはオフィスの役割として大事ではあったのですが、最近はコミュニケーションの場としての役割にウェイトが移っています。「一緒にがんばろうぜ」という気分が醸成できる場であるか、それによって一緒に働くメンバーの気持ちが揃っているかが重視されているように感じます。

また、お客さんとの接点としての機能も求められるようになってきています。特にITベンチャーの場合はユーザーコミュニティを持つことも多く、社内のエンジニアとエンドユーザーがオフィスで直接会って話すことで自分たちのプロダクトがユーザーにどう喜ばれているかを肌で感じ、それが「ヤル気の源」になっているということがあります。

ferret:
なるほど、社内のメンバー同士や、社外のユーザーとのコミュニケーションの取り方の変化がオフィスづくりにも影響を与えているのですね。それらは、仕事内容の質的な変化とも関係がありそうですね

三浦氏:
そうですね。どんな仕事も作業的な要素が少なくなり、クリエイティブに考えることにシフトしてきている中、一人あたりの生産性の差が顕著になってきてます。100人いればアウトプットが100倍になるとは限らない。昔のように「とにかくやれ」と強制してやらせるだけでは、ビジネスで生き残るための価値を生み出せなくなってきています。

八塚氏:
ただ決められた時間働くというのではなく、それ以上の力を発揮してもらおうとすると気持ちが乗っていないといけない。人数を揃えればうまくいくとは限らず、その中で「火がついている人が何人いるか」が大事。社員のチャレンジをいかに引き出すかということが経営の一番の課題になってきている中、基盤となるオフィスがその解決策の一つとして捉えられるようになってきているというわけです。

ferret:
なるほど。オフィスづくりが経営課題の解決手段にもなってきているわけですね。

三浦氏:
オフィス投資を真剣に考えられる会社というのは、経営者にセンスがある気がします。昔のように社員で運動会をやらなくてもコミュニケーションを生み出す空間づくりをすればうまくいくじゃん、という。

八塚氏:
経営として、何をよしとするのかを伝える手段にもなっています。何か方針を変える時に、口だけではダメで。経営の意志をオフィスに反映することで、速やかに浸透させることができます。

ferret:
働く人の価値観の変化も影響していそうですね。例えばつい先日までは「ワークライフバランス」が主流だったのが、最近は「ワークアズライフ」。言葉は似ていますが分けて考えるのと、統合的に考えるのは大きな違いです。

八塚氏:
そうですね。最近の人は職場もプライベートもシームレスに考えるようになってきていると思います。サービス開発自体がリーンに立ち上げて、実地の中で改善を続けていくというのが主流なので、オフィスだけが固定なのはおかしい。なので、私たちの仕事も移転後うまくいっている企業というのは、その後も小さなオフィス改善を引き続き相談されるケースが多いです。

オフィスづくりの相談内容から見える、今の経営者の課題意識

ferret:
様々な企業からの相談を受ける立場から見えてくる、今の経営者が共通して持っている問題意識などはありますか?

八塚氏:
ベンチャーなどで規模が大きくなってくると、経営者が全てを把握しきれず次の会社の方向性がわからなくなるという悩みをよく耳にします。社内の人間だと意見をとりまとめるのが意外と難しかったりするので、第三者として、オフィスづくりの前にそこのまとめからお手伝いすることが多いですね。

部署同士お互いの動きや考え方が見えないこともありますが、各部署のマネージャーを集めてワークショップを行うことで、合意を作っていきます。普段の業務の中では意見を交わしてはいても「何故」の部分まで会話してないことも多く「これって貴重な機会だよね」という話がお客さん同士でよく出ます。

三浦氏:
ベンチャーの場合、最初は個人の想いからスタートして、その後ジョインするメンバーにそれが広がっていきます。その過程で個人と個人の想いのぶつかり合いが問題になるケースが多いように感じます。

ferret:
なるほど、昔のように「サラリーマン」ではなく、ワークアズライフを実践する「個人」としてのぶつかり合いが発生するわけですね。

三浦氏:
そうですね。それを解決するためには、AorBのような二者択一の正解の出し方ではダメで、合意形成のプロセス自体が問題解決の方法になります。社員同士の納得感を積み重ねていける進め方。そのために僕たちは、コミュニケーションが発生しやすい場を作っています。

ヒトカラメディアが提案する際にこだわっていること

ferret:
企業によって悩んでいるポイントや解決法は様々だと思いますが、ヒトカラメディア様が提案する際に共通してこだわっていることはありますか?

八塚氏:
プロセスを通じてクライアントの社員同士のつながりを作ることですね。オフィス移転はお互いの業務について深く話すきっかけでもあり、気づきが生まれるチャンスです。様々な企業を見ている中で「意外とお互いに知らないことが多いんだな」と思うようなことが、しょちゅうあります。次にまた移転しても、その時につなぎ直した関係性はずっと残っていきます。

三浦氏:
デザイナーの立場として言うと、相手が想像していない問題も含めて見つけて解決しておくというのもあります。そもそもオフィス移転に慣れている人はいないので、提案しても全てを理解されることはありません。入ってみて初めて分かってもらえる仕掛けも入れておくことで、リピートにもつながっていくと思います。

また、「こんな椅子を入れたい!」とか「西海岸風がいい!」とかカタチから議論がスタートすることも多いため、「それいいですね。で、そもそもなにやりたいんでしたっけ」と議論をちゃんと本質的な話に持っていく、というのはよくやっています。

今すぐできる、オフィス改善のTips

ferret:
引越しのタイミングではない読者でも、今できることはありますか?

八塚氏:
レイアウト変更もおすすめです。コツは、社内にある「死んでしまっている空間」を見つけ、どう活かすかということを考えることです。例えば一軒家をオフィスにしている企業があったのですが、車庫が物置になっていました。そこに卓球台を置くことで、死んでいた空間が人をつなげる場所になりました。多くの企業にはリフレッシュスペースといいつつ、一人で孤独にランチを食べる場になってしまっていることもよくありますよね。



三浦氏:
あとはペンキ塗りのDIYもおすすめです。社員みんなで協力して4時間くらいで塗るんですが、だいたい大盛り上がりになります。例えばこのストリートアカデミー社は白壁に会社の行動指針をステンシルで入れました。ポスターとして掲げるのと違い「みんなで一緒にやったよね」という体験が壁に埋まるので、愛着にもつながります。文字がちょっとズレていたりするのがまたいいんです。

​​​​​​​【参考】ストリートアカデミー社のDIY紹介記事

シェアオフィスが増加する中、オフィスを構える必要性

ferret:
最近では規模の大きいお洒落なシェアオフィスも増えてきていますが、そんな中であえてオフィスを構える必要性はどこにありますか?

八塚氏:
シェアオフィスでも全然いいと思っていて、要はどのつながりを大事にするかだと思います。社外との意外なつながりを求めるのか、社員同士の濃い絆の醸成に力を注ぐのか。昔よりも選択肢が増えてきているというのはいいことです。

例えば弊社が手がけた株式会社ニットさんは、フルリモートでフレックス。時間や場所にとらわれない業務にもかかわらず、先日あえてオフィスを構えました。職場を社員を縛るものではなく、コミュニケーションの基点として捉えた時に必要性が生まれてきます。

【参考】ニットのフルリモートOKな企業があえてオフィスを構える理由とは?イベントレポート

三浦氏:
人は五感で生きているので、同じ空間を共有するというのは情報量が多く、生産性にもつながると思います。SNSやビジネスチャットツールなどで文字情報が増えてきているからこそ、空間を共有する中で生まれるコミュニケーションの重要性が増している面もあります。

オフィス改善で社員の「採用力」「定着率」を上げられるか

ferret:
今優秀な社員の獲得や定着が注目されていますが、オフィスの移転や改善によってそれらに良い効果を生むことは可能でしょうか?

八塚氏:
自分がそこで働くイメージを持ってもらうのに、手っ取り早いのはオフィスを見てもらうことです。オフィスの考え方を見れば、その会社に自分がフィットしているかどうかがスピーディに伝わります。例えばエンジニア採用であれば、「集中できる環境」と「コミュニケーションが取りやすい環境」のバランスなど、オフィスを見せれば何を大事にしている会社なのかを感じ取ってもらうことができます。

ヒトカラメディアは自社のオフィスをどう設計するか

ferret:
最後に、そんなヒトカラメディア様が自身のオフィスを設計する時のこだわりを教えていただけますか?

八塚氏:
自社のオフィスは、自分たちの提案の引き出しを増やす実験の場だと思っています。なので「ここをこうしたい」という改善アイデアがリアルタイムに集約できるよう、オフィスの真ん中に間取り図を貼っています。カーペットの切り方やテーブルの高さ・カタチなど、過ごしている中で気づいたことを積極的に試して実験を重ねています。

三浦氏:
開放感と篭もり感のバランスも大事です。弊社のオフィスはざっくり半分が執務スペース・半分はコミュニケーションスペースになっていますが、それだけだと視線の逃げ場がないので、窓ぎわに隠れ家のようなスペースを設けたりしています。無駄なスペースも必要だと考えて、あえてこだわって作るようにしています。

ferret:
ありがとうございました。オフィスづくりというのが、マーケティングの世界でいうブランディング活動のように社員を巻き込んでいく「活動」になってきている。そしてブランディングよりさらに一歩先の「各社員の働き方」自体の議論にまで及び、今いる社員の満足度向上や、これから出会う新たな候補者へのプレゼンツールにもなっている。インタビューを通じて、そんな実態が見えてきました。

神保康介

神保康介

株式会社ベーシック ferret編集部 ディレクター/ライター 大手広告代理店でのアカウントプランナーを経て、メガベンチャーの女性メディアにて、ナショナルクライアントを中心に120本のタイアップ広告制作を経験。 「広告のコピーライティング発想」と「編集目線」の掛け合わせにより、平均の反響数を5倍にするライティングメソッドを開発。

中途入社予定者フォローの必要性と3つの例

2019-08-19 18:16

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『エバンジェリスト』とは

2019-08-16 10:26

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2019-08-08 09:30

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2019-08-01 10:51

リアルタイムフィードバックとは、一般的に四半期や半年に1回実施する人事評価を、1週間や2週間に1回という高い頻度で行う評価制度のことです。 従来のフィードバック面談と異なるのは、『リアルタイム』という点です。フィードバックする頻度を高めることで、より的確な評価を出すことができたり、上長とのコミュニケーションを増やしたりすることができます


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